1998年10月21日〜


H2D 金京玲


 この修学旅行は、私が今まで行って来た旅行の中で、一番感慨深い旅行となった。そして一番いろいろな感情がほとばしった旅行だったと思う。その理由はもちろん、行き先が母国であり、私達が在日韓国人であることだろう。出発前はみんなとの旅行としか考えていなかったし、実際に修学旅行はみんなとの思い出をつくるという目的への執念で、医者にやめておくようにと言われたにも関わらず、参加したのである。案の定、引率の先生方やガイドさん達にも迷惑をかけ、本当に申し訳ないことをしたと思う。その反面、行って本当に良かったという気持ちが強い。なぜならこんなにいろんな事を学べた旅行はなかなかないからである。
 みんなとの旅行とだけしか考えていなかった頭に転機をもたらしたのは、地元の人からの「在日同胞か日本人か」という質問である。その時「在日同胞」というのを韓国語で答えるのは何だかいけないことのような複雑な心境だった。なぜなら「在日同胞」と答えた私たちは、そのあとその人達と韓国語での会話ができないからだ。でも在日同胞だと言うと、日本語で対応してきた人達もいれば、ほんの少しでも言葉が分かることで感心していた人達もいて驚き、韓国人と名乗っているのに韓国語を話せない私たちは中途半端な存在に思えてならなかった。そしてその時「ああ、このための民族教育か。」という考えが浮かんだ。
 統一展望台でも普段ではない気分を味わった。私には統一の問題は遠いことに思え、客観的に見てしまうので、そういう立場から言うとひと口に統一すればいいとは言えないのが実際のことであろう。けれど統一展望台から朝鮮のひっそりとした街を見て、何か切ない気持ちになったのは確かだ。
 旅行中、そういう事ばかり考えていたわけではない。思い浮かべていたみんなとの旅行の醍醐味であるエバーランドや自由行動は、想像以上に楽しいものだった。一番充実していたのは食生活で、大きな出来事はキムチを食べれるようになったことだ。これはキムチ好きの家族を持つ私にとって、実に喜ばしいことである。肉ばかりなのが玉にキズだった。
 今回の修学旅行は、本来の目的と自分の目的が、両方とも兼ね備わった本当に心に残る旅行であり、そういう旅行になった事を心からうれしく思う。そしてガイドさんや添乗員さんに感謝の気持ちでいっぱいなのと同時に、熱だ、なんだ、と迷惑をおかけした先生方にもこの場を借りてお詫びしたい。そして、修学旅行の行き先が、母国韓国で本当に良かったと今、心から思う。


 10月21日、あいにくの雨の中、韓国にむけて関空を出航。例によって祈るような気持ちでの離陸、期待に反しての機内のゆれ、8000mを越えるまでの一時の我慢と思うが、それをあざ笑うかのような縦ゆれ横ゆれ、おまけがついて斜め上下のきしみ、女子生徒の悲鳴、機内アナウンスは無し、隣席の李鐘建先生は右肘掛けにしがみついて一切語らず。
 釜山は嘘のような快晴、26日ソウルを発つまでの全行程、10月下旬の韓国とは考えられない温暖な気候と快晴に恵まれる。
 母国修学旅行の目的と意義という上で、訪問地として、景福宮、ニトーエル公園、民俗村、独立記念館、尹奉吉記念館、仏国寺、石窟庵、芬皇寺址、天鳥塚、太宗台等の見学に国楽院での国楽鑑賞と教育旅行上で押さえなければいけない処は、旅行代理店との何回かの接触で煮つめあげたものだけに遺漏なきものであったと自負していますが、今回の旅行の目玉は、なんと言っても、25日に実施した班別行動につきると思います。
 旅行が、ともすれば物見遊山に終ってしまう嫌いのあるところ、自主的な行動の中に、新しい地での発見、新鮮な喜びと経験等、団体行動では得ることの薄いという悩みを、この班別行動で少しでも解決しようとした訳です。ところが準備が大変!
 シュソ事情に詳しい教務の手を借り、アドバイスを受け、李鍾建先生が走りまわっての資料造り、班別行動の候補地に、テクノマート、延世大学、韓国貿易センター、明洞、大学路、仁寺洞、押鴎亭洞、教保文庫等を5〜7名に組んだ各班に目的地と振り分け、各々の特徴の一覧表と詳細な地図の作成、加えて、出発まで数回くり返したオリエンテーションと!
 朝、各自に昼食費として一万ウォンを手渡し、昼食はファースト・フードは駄目、韓食を言葉の出来ぬ者は壁のメニューを指で示してでも食せよとの指令で全員解散する。
 午後2時、市街地での集合後、予定通りのスケジュールをこなして夕食後ホテルに到着したのが午後7時、疲労困憊で休息を取りたいところを、班別行動のレポート作成を命じて午後8時大食堂に一同集合、各班ごとに、今日の約一日の班別行動を発表。我々引率の期待以上の発表が午後9時すぎまで続いた。
 画一的なスケジュールに乗せて、バスの団体行動を取っていたなら、問題行動等に対する憂慮はより少なかったのは間違いのないところだろうが、班別行動によるトラブル、集合時間の遅刻の他への影響等恐れることは種々あるが、生徒も引率も責任を持って新たな発見に取り組んだ成果は充分出たと思う。


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